先日、テレビのニュースで「“歯磨き”がインフルエンザ予防に?」という特集が放送されていました。
インフルエンザの予防といえば、手洗い、換気、マスク、ワクチンなどを思い浮かべる方が多いと思います。
「なぜ、歯磨きがインフルエンザ予防につながるの?」
そう思った方もいるのではないでしょうか。
歯科衛生士として12年間働いてきた私にとって、口の中を清潔に保つことは、むし歯や歯周病を防ぐためだけのものではありません。
口は、食べ物や飲み物が最初に通る「消化管の入り口」です。口の中には多くの細菌が存在し、その一部がインフルエンザウイルスの感染や増殖を助ける可能性も報告されています。
さらに近年は、口腔内の細菌バランスと腸内細菌の関係についても研究が進んでいます。
今回は、歯磨きとインフルエンザの関係、口腔細菌と腸のつながりについて、歯科衛生士の視点から分かりやすくお伝えします。
なぜ歯磨きがインフルエンザ予防につながるの?
口の中には、健康な人にも多くの細菌が存在しています。
その細菌が集まって歯の表面に付着したものが、歯垢です。歯垢は食べかすではなく、細菌のかたまりです。
口腔内の細菌の中には、インフルエンザウイルスが細胞へ侵入したり、細胞内で増えたウイルスが外へ放出されたりする働きを助ける酵素をつくるものがあります。
そのため、歯磨きや口腔ケアによって歯垢を取り除き、口腔内の細菌を増やしすぎないことが、ウイルスに感染しにくい口内環境を保つ一助になると考えられています。
日本歯科医師会は、高齢者に口腔ケアを行った研究で、インフルエンザの発症リスクが約10分の1に低下したという結果を紹介しています。
ただし、これは高齢者を対象に、歯科衛生士による専門的な口腔ケアを行った研究です。すべての年代で、普段の歯磨きだけによって発症リスクが10分の1になるという意味ではありません。
また、歯磨きをすればインフルエンザに感染しないわけでもありません。
歯磨きは、手洗い、換気、適度な湿度、十分な休養、バランスのよい食事、必要に応じたワクチン接種などと組み合わせる予防習慣の一つとして考えましょう。
参考:日本歯科医師会「お口のなんでも相談 特別編『インフルエンザ予防』」(2026年9月23日確認)
口腔細菌が増えると、何が起こる?
歯磨きが十分にできていないと、歯の表面や歯と歯の間に歯垢が残ります。
歯垢は食べかすではなく、細菌のかたまり。放っておくと、むし歯や歯ぐきの腫れ、出血の原因になります。
私が歯科衛生士として働いていたときも、「毎日磨いているのに、歯ぐきから血が出る」という方は少なくありませんでした。ご本人は丁寧に磨いているつもりでも、歯と歯の間や歯ぐきとの境目には、歯垢が残りやすいのです。
インフルエンザとの関係で注目されているのは、口腔細菌がつくる酵素です。高齢者を対象とした研究では、歯科衛生士による口腔ケアを受けた方の唾液中で、関連する酵素の働きが低下し、インフルエンザの発症も少なかったと報告されています。
口の中には、健康なときにも細菌がいます。大切なのは、すべてなくそうとすることではなく、歯垢をためたままにしないことです。
口と腸は一本の消化管でつながっている
私は普段、発酵や薬膳を通して「腸からの健康づくり」をお伝えしています。だからこそ、このニュースを見たとき、口と腸のつながりにも目が向きました。
食べ物は口から入り、胃を通って腸へ進みます。唾液と一緒に、口の中の細菌も飲み込んでいます。
「それなら、口の細菌が全部、腸に届くの?」と思うかもしれません。そういうわけではありません。胃酸などが壁になります。一方で、口と腸の両方から同じ種類の細菌が見つかるなど、口腔細菌が腸へ移ることを示す研究もあります。
ただし、歯磨きをすれば腸内環境が整い、インフルエンザを防げると証明されたわけではありません。口と腸の細菌がどう関わり合うかは、今も研究が進んでいるところです。
腸のことを考えるとき、食べるものだけでなく、その入り口である口にも目を向けてみる。歯科衛生士として、そして食に関わる者として、私が大切にしたい視点です。
歯科衛生士がすすめる毎日の口腔ケア
「インフルエンザのために、特別な歯磨きをしなくては」と身構える必要はありません。まずは、いつもの歯磨きで磨き残しやすい場所を意識してみてください。
歯ブラシの毛先を、歯と歯ぐきの境目にやさしく当てること。奥歯の後ろ側も忘れずに磨くこと。そして、歯ブラシが届きにくい歯と歯の間には、フロスや歯間ブラシを使うことです。自分に合う道具や使い方は、歯科医院で相談できます。
忙しい日は、毎回すみずみまで磨くのが難しいこともありますよね。そんな日は、落ち着いて磨ける時間を一回つくるところからで十分です。
歯ぐきから血が出る、口臭が気になる、同じ場所にいつも歯垢が残る。そんなサインがあれば、定期的な歯科健診で見てもらってください。自分では気づきにくい磨き方の癖も分かります。
歯磨きだけに頼らず、基本の感染対策も
ここまで口腔ケアについてお話ししましたが、歯磨きだけでインフルエンザを防げるわけではありません。
外から帰ったら手を洗う。部屋の空気を入れ替える。十分に休み、食事をとる。咳が出るときは周りの人への配慮も忘れない。そして、ワクチン接種について必要に応じて検討する。こうした基本の対策も大切です。
歯磨きは、今日からできる健康習慣のひとつです。
腸をいたわるために毎日の食事を少しずつ整えるように、口のケアも、無理なく続けていきたいですね。
参考資料
- 日本歯科医師会「お口のなんでも相談 特別編『インフルエンザ予防』」[2026年9月23日確認]
- Abe S. ほか「Professional oral care reduces influenza infection in elderly」2006年。
- 厚生労働省「インフルエンザ(総合ページ)」[2026年9月23日確認]
- 理化学研究所「口腔細菌叢の乱れは腸内細菌叢の乱れ」(2025年5月22日発表、2026年9月23日確認)


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