発酵講座で、腸と自律神経のつながりについてお話ししたときのことです。
「私は、自律神経は大丈夫だと思います」
生徒さんから、そんな言葉が返ってきました。
自律神経の乱れというと、不眠や強いストレス、動悸など、はっきりした不調がある人の話だと思われやすいのかもしれません。
けれど自律神経は、特別な人だけに関係するものではありません。呼吸や体温、睡眠、消化や排泄など、私たちが意識しなくても続いている身体の働きを支えています。
寒暖差が大きい日、雨や曇りが続く日、空気の乾燥を感じ始める季節。
「頭が重い」
「朝すっきり起きられない」
「胃腸の調子が安定しない」
「疲れが抜けにくい」
「なんとなく気持ちが落ち着かない」
こうした小さな変化も、今の身体から届いているサインかもしれません。
今回は、腸と自律神経のつながりにも触れながら、季節の変わり目の身体を薬膳と食養生の視点から見ていきます。
寒暖差や雨が続く時期に、身体はどう変わる?
季節の変わり目は、朝晩と日中の気温差が大きくなります。
身体は外の気温に合わせて、体温を一定に保とうとします。この調整にも自律神経が関わっています。
雨や曇りの日が続くと、外に出る時間が減ったり、朝の光を浴びる機会が少なくなったりすることもあります。朝の光は、睡眠や目覚めに関わる体内時計を整える大切な手がかりです。
ただし、曇りの日や気圧の変化が、すべての人の不調の原因になるわけではありません。
「天気が悪いから」と決めつけるのではなく、
・どのような天気の日に調子が変わるか
・眠りや食欲に変化はないか
・便通や胃腸の状態はどうか
・冷えや乾燥を感じていないか
数日間、自分の身体を振り返ってみることから始めましょう。
厚生労働省概日リズム睡眠・覚醒障害 (2025年7月15日掲載、2026年9月14日確認)
腸と自律神経は、互いに影響し合っています
腸は、食べたものを消化・吸収し、不要なものを排出するだけの場所ではありません。
腸と脳は、自律神経などを通して互いに情報をやり取りしています。このつながりは「脳腸相関」と呼ばれています。
緊張するとお腹が痛くなったり、生活環境が変わると便秘や下痢になったりすることがあります。反対に、胃腸の調子がすぐれない日は、気分まで落ち着かないと感じることもあります。
つまり、腸と自律神経は、どちらか一方だけを整えればよいという関係ではありません。
「発酵食品を食べているから、自律神経は大丈夫」
「毎日お通じがあるから、腸は大丈夫」
そう決めるのではなく、便通だけでなく、眠り、食欲、疲れ方、気分なども一緒に振り返ることが大切です。
味噌、甘酒、納豆、漬物などの発酵食品も、食べればすぐに不調が改善する特別な食品ではありません。
温かい食事や規則的な生活とともに、無理なく日々の食卓へ取り入れていきましょう。
参考:PubMed Central「The Gut-Brain Axis」(2018年、2026年9月14日確認)
更年期や年齢の変化と、めまい・聞こえのサイン
更年期には、女性ホルモンの変化と重なる時期に、めまいやふらつきなどを感じる人もいます。
また、年齢を重ねると、聞こえにくさや耳鳴りを感じることもあります。
薬膳では、耳は「腎」と関わりが深いと考えます。ここでいう「腎」は、腎臓という臓器だけではなく、成長や加齢、身体を支える力まで含めた東洋医学の考え方です。
そのため、めまいや聞こえの変化を年齢のせいだけにするのではなく、眠り、疲れ、冷え、食欲など、身体全体の様子と一緒に見ていきます。
ただし、めまいと難聴が必ず同じ原因で起こるとは限りません。めまいには耳や脳、血圧など、さまざまな原因があります。
突然聞こえにくくなったときや、耳鳴り・耳の詰まった感じを伴うとき、めまいを繰り返すときは、養生だけで様子を見ず、早めに耳鼻咽喉科へ相談してください。
強い頭痛、ろれつが回らない、手足のしびれや動かしにくさ、意識の異常を伴う場合は、速やかな受診が必要です。
参考:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「めまい」「難聴について」(2026年9月14日確認)
薬膳では、症状だけでなく「今の身体」を見ます
同じめまいや頭の重さでも、身体の状態は人によって異なります。
薬膳では、不調の名前だけで食材を決めるのではなく、冷えやほてり、むくみ、乾燥、疲れ、胃腸の状態などを一緒に見ていきます。
例えば、雨や曇りの日に頭や身体が重く感じる人は、身体に余分な水分がたまっていないかを振り返ります。
一方、空気が乾燥する時期に、喉や肌の乾燥、便の硬さが気になる人は、身体を潤す食材を意識します。
また、疲れやすく食欲も落ちているときは、刺激の強いものを増やすより、温かく消化しやすい食事で胃腸をいたわります。
「自律神経に良い食材」を一つ探すのではなく、今の自分に不足しているもの、負担になっているものに気づくことが、薬膳と食養生の出発点です。
秋の台所で意識したい3つのこと
温かい食事で胃腸をいたわる
寒暖差が大きい時期は、冷たい飲み物や生ものだけに偏らず、味噌汁やスープ、蒸し料理なども取り入れましょう。
朝に温かいものを口にすると、食事の時間が生活リズムを整えるきっかけにもなります。
乾燥が気になるときは、潤いを補う
薬膳では、梨、れんこん、白きくらげ、豆腐、白ごまなどは、秋の乾燥が気になる時期に取り入れやすい食材とされています。
梨や豆腐など身体を冷やしやすいとされる食材は、その日の気温や冷えの有無を見ながら、加熱するなど食べ方を調整しましょう。
発酵食品は、少量を毎日の食卓へ
味噌、納豆、甘酒、漬物などは、一度にたくさん食べるのではなく、自分の胃腸の状態を見ながら取り入れます。
発酵食品だけに頼らず、野菜、きのこ、海藻、豆類なども組み合わせ、食事全体を整えることを意識しましょう。
大切なのは、特別なものを増やすことより、無理なく続けられる食べ方を見つけることです。
「大丈夫」と決めず、身体の小さな変化を見つけよう
自律神経は、特別な不調がある人だけに関係するものではありません。
眠り、食欲、便通、疲れ方、気分など、普段の暮らしの中に身体の状態を知る手がかりがあります。
季節や天候が変わる時期こそ、「私は大丈夫」と決めるのではなく、今の身体から届いている小さなサインを振り返ってみましょう。
薬膳と食養生は、病気を診断したり治療したりするものではありません。毎日の食卓を通して、自分に合った整え方を見つけるための知恵です。
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